低高度に追い込まれるか、安全な場所にアウトランディングするか
2018年4月8日 宇都宮飛行場へのアウトランディング
この日は条件にも恵まれ、北関東エリアのクロスカントリーで飛び立ちました。 宇都宮市街地から東方向に延びるコンバージェンスを飛行中、そのコンバージェンスが崩壊。エリア一帯が下降気流ゾーンとなり、宇都宮飛行場にアウトランディングしました。そのフライトを簡単にご紹介したいと思います。
崩壊のサインを示すコンバージェンス
高度を失った場合は、まず安全に降ろせる場所に移動。サーマルが回復するまで待機し、高度を上げ直してからホームに帰投することを心掛けています。
それは過去の事故に立ち会った経験や事故報告書を見て、予期せぬ下降気流に遭遇し、ホームベースへ帰投を急ぐあまり低高度となり心理的にも追い込まれ、最終的に普段と異なる不適切なコントロールで死亡事故に至る事例から学びました。
今回のケースでは宇都宮市街地上空で高度は5,500ftあり、板倉までの直線距離は34kmだったので、通常の大気コンディションであれば安全に帰れる位置と高度でした。
しかし、その時の状況を考えると板倉までは広範囲の下降気流を飛ぶ事になり、滑空場に着く頃には低高度になり田畑に降りる可能性もありました。そのため宇都宮飛行場のすり鉢に止まり、高度を上げ直す行動を取りました。
飛び始めの20代の頃は、同じような状況下で滑走路にストレートインして当時はフライト後に、ベテランパイロットに迂回方法や上空待機方法などの対処を厳しく教わったものでした。
宇都宮飛行場
この日は当初、コンバージェンスの崩壊なら、まだ時間も早いので、待機していれば空は復活して上がり直せると考えてました。
しかし、前日は激しく湿った北東流が北関東に流入したようで大気は湿っており、崩壊したコンバージェンスから飽和した雲が中層で層雲上に横に拡散。宇都宮周辺では一時、日射が遮られた状況へと変化してしまいました。
であれば、この宇都宮エリアから動くことはせずに待機モードに切り替えて、日射が復活するまで待つことに。
じりじりと高度は下がっていくので、宇都宮管制圏の4,000ftに近づくところで水バラストを放出し、早めにTowerにイニシャルコンタクト。
管制官はグライダーの事情などは知りませんので、管制圏内を低高度でウロチョロすることは考えず、「一(いち)航空機」として扱って貰えるよう行動指針を整え、気流が悪く2,000ftを下回るようだったら降りる旨の意思表示を早めに伝えました。
板倉、及び、宇都宮への無線での調整後は、限られた日射エリアに移動しサーマルを探すも、ブロークンサーマルで高度維持がやっと。サーマルを試しながら宇都宮のMSL(334ft)とパターンを確認し着陸のイメージを作ります。
そして2,000ftで宣言通りタワーに着陸宣言し、着陸許可を得ました。
この後は通常の着陸前のプロシージャを実施。タワーに着陸後は自走出来ないことを伝え、タッチダウン点や停止位置を無線で確認したあと、13時06分宇都宮飛行場にランディングしました。
すぐに自衛官の方が車で迎えに来てくださり、機体の駐機を手伝って頂きました。その後、事務所の控室を使わせて頂き、フェリーバックの準備を開始しました。
普段より板倉スタッフの尽力で宇都宮基地とは調整があり、親切丁寧な対応を頂き、発航時も自衛官の方が翼端や索付けを手伝ってくれました。
そして宇都宮着陸から1時間30分後には、板倉からの送迎ハスキーに曳航され、ホームベースに帰りました。
このフライトは結果的にはアウトランディングになりましたが、飛び方自体は普段の飛び方とは大きく変わりません。
事前に設定している「すり鉢」から「すり鉢」への移動はグライダーの滑空性能だけでなく、大気のコンディションを考慮に入れて飛んでいますから、低高度に追い込まれるリスクは避けて飛んでいます。
一方でアウトランディングとなった原因を振り返ると、今回のように湿った空気の中で、雲に水平視界が遮られるような状況下では、地上に映る影などを参考にするだけで、十分に空の観察が出来ないのに判断を先に進めていた点が悪い癖であると認識しました。
これからも低高度に追い込まれないよう、根拠のある判断で安全に飛びたいと思います。